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オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。

2024年05月19日 (Sun)
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2011年06月18日 (Sat)

 6/26発行本に関連した、通常のうちのシリーズの皆さんの越境番外編です。
 本に絡めたエピソードでもありそうでなかったりという、お話。

拍手[3回]



 カーラジオから流れて来た会話の内容に、大きく頷く助手席の熊を肘でどつく。
 熊とは言っても、生物学的には辛うじて人間に分類される助手席の生物は、厚い肉の乗った腹を軽く撫でた。

「痛いです、社長」
「熊のくせに、恋愛話に頷いてんじゃねーよ」

 薄い眉毛の下、眼力だけで人を射殺せそうな視線を発する目が、熊を睨み据える。
 髭だらけの頬から顎を撫でながら、熊は人語で返した。

「おれにだって共感くらい出来ますよ、社長と違って家庭持ってましたから」
「バカにしてんだな、そーかオッサン今月給料いらねーんだな」
「横暴過ぎます」
「うるせぇ、文句ある奴は辞めちまえ」

 作業着の胸ポケットから取り出した煙草に火を付け、閉じていた運転席側の窓を薄く開ける。
 と同時に、荷台から騒音――ならぬ叫び声が聞こえて来た。

「寒いっすー! 社長、超寒いっすー!」
「……たく」

 直線の続く川沿いの土手を走らせていた軽トラックを、運転していた社長はしばらく走らせ路肩に止めた。
 咥え煙草のまま運転席を降り、荷台で喚く若者の首根っこをひっつかんで引きずり下ろす。

「なんか飲みもん買ってこい、間違っても冷たいモン買ってくんなよ」
「ラジャーっす!」

 尻ポケットから小銭入れを投げつけ、受け止めた若者が土手を掛け下りる。
 青い軽トラックの横に書かれた『(有)ユメミックス・リサイクルショップ』の文字。
 回収してきたばかりの年代モノの冷蔵庫に頭を預け、社長は空に向けて煙を吐き出した。

「オッサンも降りろ」

 まだラジオに聞き入ってる熊へ声を掛ければ、不服そうに顔を顰めドアを開けた。

「結構毎週楽しみに聞いてるのに」
「何がいいんだよ」
「若い子の悩みって、聞いてて楽しくないですか」
「いーや」
「社長は悩み相談受けるタイプじゃないですよね」
「オッサン、ちょこちょこ俺をバカにしてるだろ」

 指までみっしり毛の生えた手が、強請るように社長に向けられる。
 舌打ちを一つ零し、胸ポケットから煙草を1本引きぬくとその掌へ放り投げた。
 ついでのようにライターも投げつける。

「してませんよ、社長は凄いなぁと思ってます」
「嘘くせぇ」
「素直じゃないですねぇ、タクちゃんの方がよっぽど素直だ」
「あれは配線が1本きゃねーんだよ」
「シンプルな方がいいですよ」
「あれは足りな過ぎる」
「でも社長は、そーいうタクちゃんがいいんですよね」
「……なんの話だよ」
「いえ。3人しかいないと色々見えるだけです」

 川を眺めながら、しばらく無言で並び煙を吐き出す。
 遠くから聞こえてきた騒々しい足音に振り向けば、頭に巻いていたタオルでホットの缶コーヒーを包んでかけてくる若者の姿が見えた。
 階段を無視し、わざと枯れ草の土手を掛けてくる彼の姿が、一瞬視界から消える。
 盛大な叫び声と共に滑り降りる音が聞こえ、社長のこめかみがひきつったのが熊には見えた。

「お待たせしましたー!」
「じゃねーよ、お前絶対それ落したろ! しかもお前の汚ぇタオルで包んでんじゃねーよ!」
「ええー! だって熱いじゃないスかー!」

 やれやれと肩を竦め、熊は窓の中へ太くて短い腕を差し込みラジオのボリュームを上げた。
 向こうも盛り上がりが過ぎ、エンディングへと向かうようだ。
 最後の曲は、時期に合わせた有名すぎる曲だった。

「あ、『桜坂』」

 熊の呟きに、掴みあいに発展しかけていた二人が振り返る。
 土手沿いに並んでいる木が桜である事に、ようやく気付いたように社長は目を眇めた。

「来週は、花見やっかぁ」
「そースね、どこでやります?」
「お前どーせ酒と喰いモンが目的だろ」
「花見てそれが目的じゃないんスか!?」

 真剣な顔で問い返してきた若者の頭を叩き、社長は熊を振り向いた。

「場所取りはオッサンな。下っ端新人の鉄則だ」
「了解しました」

 形の変形した缶コーヒーに指を掛けて、3人並んで中身をあおる。
 窓から漏れ聞こえてくるラジオの音声が、落ち着いたトークに変った。
 
「次どこだっけ、社長」
「渋谷」
「えー、それまで俺外!?」
「寒けりゃあの冷蔵庫にでも入ってろ」
「……それも嫌ッス」

 身震いする若者に溜息をつき、社長は運転席のドアを開けた。

「さ、仕事すんぞ仕事!」



 ------------------

 ⇒続く




 
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