春は××… 7【完結】

 
6/26Ｊ庭発行本に関連した、通常のうちのシリーズの皆さんの越境番外編です。
本に絡めたエピソードでもありそうでなかったりという、お話。

日付が変わる寸前帰宅した賢は、出かけた時以上の疲労感に覆われて帰って来た。

「お疲れ。どうだった？」
「ああ、どうにか片付いた」

まっすぐ浴室へ向かう賢の後ろを付いて歩きながら、祐司は声を掛けるが反応は鈍い。
溜息をついて取り敢えず晩酌の支度でもするか、と洗濯籠に入れられた賢の来ていたハイネックのカットソーを手に取った祐司の表情が、驚愕に彩られた。
黒の洋服の襟もとに、肌色の粉が付着している。
指先で拭ったそれは、やはりどう見ても化粧品であった。

（……何してきたんだ、あいつ）

このところの呼び出しが「友人」としか聞いていなかった事を素直に信じていた自分を、思わず顧みる。
問い質すべきか、否か。
すっかり晩酌の支度も忘れ、結局祐司は賢が風呂からあがるまでその場で固まり続けた。


＊＊＊


「……だから、おまえがおもっているような事態は何もない」
「本当だな！？」
「嘘などつくか」

証拠物件を突き付けて問い質した結果、賢は身の潔白を主張してきた。
疲れた顔で、これ以上の面倒事はごめんだと言いたげな様子にも苛々しながら、祐司はもう一度肝心の部分を賢の前に突き付けた。

「なら、なんでおまえの服にファンデーションが付いてんだよ！」
「それは……聞くな」
「聞くだろ普通！　気になんだろ！」

熱くなる祐司とは対照的に、顔を覆い重い溜息を零すと、賢は至極冷静に切り返した。

「疑われる疾しい事などしてくるか」
「じゃあなんなんだよ！」
「明日話してやる、頼むから今日はもう寝かせてくれ」

降参とばかりに手を上げた賢に、噛みつきかけていた祐司が口を噤んだ。
明らかに疲れた顔の賢に、さすがに気が引けてきたのだ。

「絶対話せよ、明日！」
「ああ、ゆっくり寝て起きたら話してやる」

晩酌もせずに寝室へ向かう賢の背中に、祐司は手に持っていた服を投げかけて、止めた。
明日になればどうせ決着がつくのだから、これ以上責めても仕方がない。
そう思い直し、祐司は足音荒く洗面所へ向かい服をやや乱暴に洗濯機の中へ放り投げた。



＊＊＊



いつになく恋人の機嫌が悪い事に気付いていた高梨だったが、1点我ながら有り得ないミスをしたと思っていた。
しっかり落としたつもりの化粧が、まさか着ていたシャツに付着しているとはまったく予想外だった。
せっかく部屋に着いてから機嫌を取り、どうにか上向きになっていた克巳の表情が、また険しくなっている。
しかも腰に跨るように乗っている状態で、服を脱がしにかかっている分克巳の方に利がある。

「えーと……一応、弁明させてもらってもいいですか」
「聞く耳持たねぇ」
「いや、あのですね」
「おまえがどこで何してようと知ったことじゃないが、勝手に遊んでんのは気に入らねぇ」
「いや、遊んではいなかったんですけど……って、克巳さん本気で怒ってる？」
「うるせぇ！　帰れ馬鹿！」

ベッドから蹴り落とされ、したたかに腰を打ち付けた高梨は思わず呻いた。
内心で、この騒動の元凶と本気で縁を切るかと考える。

（北森の所は……揉めてないのかな）

ふと、実は結婚していたと聞いた友人の話を思い出し、心配になる。
すっかり慌ただしく過ぎた1日で、仔細は尋ねられなかったけれども。

（嫁さん紹介してって、誘い出してみるかな。花見にでも）

枕や布団などの柔らかい物が降って来るのを受け止めながら、いよいよ手元にあるのが目ざまし時計やリモコン類になった事で、態勢を変えながら高梨は胸の内で呟く。

――取り敢えずそれまでに、この人の機嫌を直さなくちゃ

実力行使、と口の中で呟きながら高梨はゆっくりと立ち上がった。
暴力とは違う方向で、手を出そうと心に決めて。






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これにて完結です。
すべてのエピソードが発行する本の本編に、かかるとは限りませんが(笑)
ただ、本をお読み頂いくかもしれない方への導入線にはなれているのではないかと思っております。

初のオリジナルＢＬ本を引っ提げてのイベント参加でドキドキしておりますが、お時間ございましたら6/26（日）は池袋サンシャイン：J.GAREDNへお越し頂ければと思います（*^_^*）
オマケ本等もご用意しておりますので、お気軽にお立ち寄り下さいませ！








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