正義の味方をアテにして下さい。（後編）

　傾向：特撮ヒーロー　/　無口少年　/　BL未満　※投稿時より加筆修正版

　

　初めて聞いた、ツトムの声は、はっきりと俺の耳に届いた。
　子供らしいというか、年相応の声。ただ、張りの無い、それは細い声だった。
　振り向いたツトムが俺を見下ろし、微かに目許を細めた。

「レッドがいい」
「……この野郎」

　立ち上がると、俺はツトムの頭を掴み自分の腹に押し付けた。
　片手で掴める頭、骨の浮いた痣のついた身体。
　触るのをずっと避けてきたツトムを、俺は思い切り抱きしめた。

「なれよ、正義の味方」
「なる」
「へこたれんなよ」
「だいじょぶ、うたれつよいから」
「……お前が言うと、洒落になんねーんだよ」

　力いっぱい抱きしめれば、苦しいのかもがきだしたツトムを解放する。
　ぎゅっと俺のシャツを握る小さな手に、上から俺の手を重ねた。

「俺、その頃悪の大魔王やってるから」
「たおしにいく」
「待ってるわ」

　ツトムて名前しか知らない、小汚いガキ。
　一緒に飯食うだけだった、俺。
　それだけだった、数ヶ月。
　ツトムに会ったのは、それが最後だった。


　＊＊＊

「俺ら、本当に正義の味方なんスかね。タローさん」
「間もなく廃業だけどな」

　タローさんと並んで、雲一つない空へ煙草の煙を吐き出す。
　俺達の正義の味方としての活動も、残すところあと数回だった。
　ツトムが居なくなっても、何も変わらない。
　スケジュールをこなし、撮影を進める。

「あいつね、正義の味方になるって」
「へぇ」
「俺、倒しに来るらしいです」
「そりゃ、迎え討たないとな」
「ワンパン上等だっての」
「よかったな、俳優辞めなくて」

　このあとの仕事や、事務所との方針で、辞めて地元帰るかも考えていた。
　だが、思い留まった。
　田舎の漁師じゃ、悪の大魔王になれないからだ。

「タローさん、そん時は参謀で」
「俺はさらに上のラスボスだろ、地球規模の」
「マジでなりそうだから嫌、タローさん」

　怪人に撮影再開だと手を振られ、俺達はもたれていた壁から身を起こした。

　さて、正義の味方のお仕事、してくるか。




　＊＊＊




　――それから13年。
　そこそこの知名度と、相変わらずママ受けするキャラクターを築いた俺に、懐かしい人から電話がかかって来た。
　あの正義の味方の番組で一緒だった、助監督さん。いや、元助監督さん。
　今は向こうも立派に監督になっていた。
　あのガキの言葉を信じてたわけじゃないが、俺がいい感じに年を食ったらまた呼んで欲しいと言っていたのを、彼は律儀に覚えていてくれたらしい。
　俺も35歳になって、そろそろただのイケメンだけじゃ面白くなくなっていた頃合いだった。

『司令官か、悪の総大将。どっちがいい？』
「決まってるじゃないですか」
『だよな』

　1週間後、主演陣のオーディションをするから、興味があるなら来ないかと誘われ、俺は快諾した。

　
　その会場に集まった若者の中で、そいつの目つきだけがやたら気になった。
　俺をまっすぐに睨みつける、生意気そうな目。
　……何かを思い出させる、視線。

「7番の、城下ツトム君。今回の応募の動機をお願いします」

　プロデューサーの呼びかけに立ちあがったそいつは、俺に指を突きつけると、ニッと口角を持ちあげた。

「あの人を、倒しに来ました」





　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

　実質最後の投稿作品。
　裏側とか、詰め込もうかと思ったんですが、敢えてそこは軽く済ませました。
　そして、この出題というか主題部分である『虐待』
　これについても、敢えて子供が虐待されている部分は省きました。
　それでも、伝えたかった事は詰め込んだつもりです。

　ツトム側の13年間も、落ち着いたら書きたいなぁとぼんやり考えてたりします。
　どんだけ再会モノが好きだと言われそうですが（笑）
　

　
　

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