オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
あと10分で、本番が始まる。
向かい合う事に慣れてなくて、隣に座らせて貰うよう浜口さんに申し出たら、快諾してもらえた。
高校の頃も、電車で顔を見ず隣り合わせで話していた癖が、抜けないのかもしれない。
「緊張して話し出来ないと、大変だしなぁ」
肩を力いっぱい叩き、ブースに戻る背中に苦笑を返す。
その様子を、椅子の背に沈みながら山本が横目で見て来た。
……心なしか、機嫌が悪そうな気がする。
「……YAMATO、さん」
口に出して呼ぶのは、何故か恥ずかしい。
けれど、山本とは呼べない為に音にした名前に、彼は億劫そうに振り返った。
「あ?」
やっぱり声が、刺々しい。
肩を竦めた俺に、山本は顔を片手で覆い、長く深い息を吐いた。
「……俺今、心の狭さに自己嫌悪中」
「え?」
「浜口に懐き過ぎだろーとか、俺とはあんま話ししねーくせにコンチクショーとか」
首を傾けて来た山本に、俺は怖ず怖ずと視線を向けた。
怖いぐらい、真剣な顔が視界に入った。
「ガキみてぇ。お前が、他の奴と喋ってんの気に食わねーとか、何様だってな」
「やま……」
「お前に会えて、超浮かれてんのとかキモいよなー。悪い悪い」
大きく伸びをし、背筋を伸ばすと、山本は机の台本や紙の束を眺め出した。
会いたかった人。
たくさん、伝えたいことがあった人。
ここに来てから、まだ俺は何一つ伝えていない事を思い出した。
昨日から、何度も考えた言葉が、口から出てこない。
思わず俺は、台本をめくる山本に手を、伸ばしていた。
肘の辺りを指先で、軽く摘む。
「何だ?」
「あ……あの、俺も、会えて嬉しくて、おかしい」
「あ? 俺に? YAMATOにか?」
「両方……っ! 山本にも、ずっと会いたくて、ラジオで声聞いて、山本に似てるって思って! それで俺、毎週声聞きいて思った! 毎日のメールも、ずっと楽しかった! だから会えて、俺っ……どうしていいか!」
「ばか、落ち着け!一気に喋んな!」
肩を掴まれ、正面から向き合う形になり、俺は少し息を整えた。
山本が、困惑気味に笑い顔を俯ける。
「……んな、テンション上がるような告白すんなよ。調子に乗るだろが」
「で、でも、本当の事で……っ」
「俺に会えて、おかしくなった……か」
「……そう、だ」
「あーやべ、マジ本番前にお前、なんてこと言ってくれんのよ」
大きく溜息を吐き出し、山本はちらりと目だけを上げた。
「あーあ、本気になっちゃった、俺」
本番始まるぞ、と浜口さんの声が響く中、山本は返事を返し表情を改めた。
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萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。