オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
店を出たのは、始発が動き出す間際だった。
浜口さんはそのまま局に戻るというので、店の前で別れ、二人で駅に向かう。
「久しぶりに、二人で乗るか。電車」
山本に頷き返すと、彼は少し躊躇いがちに俺に問い掛けて来た。
「家どこ? ……って聞いてもいいか」
「……あ」
券売機の前に立つ彼の横で、路線と降車駅を告げる。
目を丸くして、タッチパネルに触れかけた指を山本は止めた。
「なんだよ……乗換駅同じじゃねーか」
「そ、そうなのか?」
「くそ、もっと早く気付けばな」
もしかしたら、本当に擦れ違っていたんだろうか。
あの頃の俺には、脇目振る余裕が無くて。
眩しい朝日に眼を細め、俺は山本から、切符を受け取った。
* * *
「手」
「え?」
「だから手」
シートに座るなり、山本は俺に掌を向けて来た。
躊躇う暇もなく、差し出した手を握られる。
「な……何っ」
「やっと念願叶ったわ」
「え?」
始発と言え、乗客が多い中で、山本は身体の間で隠すように、握った掌に力を込めた。
「色々考えてたんだよなー、おまえとしたいこと」
「し、したい……事?」
「あ、変な事じゃねぇよ? 何考えたんだよ、おまえ」
意味深な眼差しで俺を見つめる山本に、どぎまぎと俺は眼を逸らした。
繋いだ手が、クーラーの効いた車内に反し、汗ばんでくる。
「や……山本……」
「なぁ俺達、遠回りしたろ。今更急いでもしょーがねぇからさ、ゆっくり、付き合ってかね?」
口調の割に真摯な声で、繋いだ手がピクリと震える。
付き合うが、どういう事なのか、……俺には本当はわかっていない。
願望なんて持てなかったから。
けれど、せめて、この握った手の存在を……繋ぎ留めたい。
「お、お願いします……っ。俺、山本と縁が切れるのだけは、嫌だ」
「切れない、つーか切らせねぇ」
しっかりと手を握られ、俺はその横顔に視線を向けた。
「繋がってんだろ、俺達は。しっかり目に見えない赤い糸がよ」
「……糸……」
「でなきゃ、10年も男に片想いして、捜したりするか」
投げ出した足を組み、山本は繋いだ手に視線を落とした。
それから、また俺に目線を合わせる。
「だから、焦んな。もう、捕まえたから、安心しろよ」
山本はそう言って、指を解いた。
物寂しさを感じ、眉を寄せた俺に、山本が優しく微笑み返してくれる。
しっかりと、目と目が、合う。
それだけで幸せを、孤独じゃないと思える自分には、まだこの距離感は慣れないけれど。
けれど、焦らず繋いでいこうと思う。
山本と一緒に。
これからも、ずっと。
………………………………………
お疲れさまでした。
これにて、【繋がる】のシリーズ完結となります。
足かけなんだかんだと3ヶ月近く向き合ったのは、書きたい事が多かったのと、予想以上に反響が大きくて。
ちゃんと、この二人に、シマネコに向き合ってあげたいなと思った事が一番でした。
いい大人が、これから多分今どき中学生でもしないような恋愛を、育んでくんだろうなと思います。
けど、この二人にはそれがいいペースなんだと思います。
お付き合い頂きまして、ありがとうございました!
次に意外に人気があった(笑)、配達員君の番外編も置いてあります。
よろしければ目を通して下さいませ。
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【俺様×健気】【ヘタレ×女王様】
萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。