【繋がる】その後～携帯電話購入編

　その後の二人その２。加筆有り。　　副タイトル：シマネコ、ひとりでできるもん！(笑)

【問題】

　『人見知り』でお願いしますっ！

　土日は人が多くて嫌だと思い、平日を選んだが……今、それを後悔している。
　客が自分しかいない、自宅近くの携帯電話ショップは、針の筵だった。
　視線が、俺に集中していて痛い。
　若い女性店員が二人、俺を見ては何か囁き合っている。
　出来るだけ最近は、外見に気を使うようにもなったし、伸ばしっぱなしだった髪も切った。
　逆に隠す事が出来なくなった顔を曝して歩くのが、まだ心もとないが。
　久しぶりに動悸がしてきて、俺は壁に寄り掛かるように息を吐き出した。

（……やっぱり山本と来るべきだったかな）

　甘え過ぎるのは良くないと、一人で来たが、既にもう帰りたい。
　たくさん並んだ機種に、目的の物がわからず。
　それを尋ねる勇気もない。
　諦め気分になったその時、肩を背後から叩かれた。

「ひ……っ」
「お客様、顔色優れませんが、大丈夫ですか？」

　振り返ると、シルバーの眼鏡を掛けた店員さんが、心配そうな顔で立っていた。
　無言で頷いた俺に、彼は近くの椅子を勧めてくれた。

「本日は、機種変でご来店ですか？」
「……い、いえ、新規、契約で」

　掌の中で握り締めていた、汗で湿ったメモを彼に差し出す。
　山本に聞いていた機種名を書いたメモを、店員は嫌な顔もせず受け取り、開いた。

「こちらを、お望みですね」
「……は、はい」

　頭を必死に振り返すと、彼は穏やかな笑顔を浮かべ席を立った。
　直ぐに、三体色違いの機種を持ち、彼は戻って来た。

「お色は、如何なさいますか？」
「あ、え……と」

　山本と色違いがいいか、と俺がしばらく悩み込む間も彼は黙って待っていてくれた。
　結局、青い機種を選択した俺を、契約カウンターに案内してくれる。
　先程いた女性店員は、カウンターにはいなかった。

「……まったく女性は男前な男性に、すぐ反応していけませんね」
「え？」

　促されカウンターに着くと、彼は少しおどけた顔を見せた。

「お客様が、人気俳優さんに似ているとかで、仕事そっちのけで騒いでまして。すみません、お相手が男の私で」
「あ、いや全然！」

　むしろ、この人でよかった。
　俯きがちにそう伝えたら、書類に置いた手が一瞬止まった。
　おかしな事を言ったかと、顔を上げれば、柔らかな笑顔が見えた。

「私も、今日最初のお客様が……西村様でよかったですよ」
「え？」
「一日とても、気分よく仕事が出来そうです」


　＊＊＊


「お、ちゃんと買えたか」

　夕方、帰って来た山本に真っ先に携帯を見せれば、嬉しそうに笑って頭を撫でてきた。

「馬鹿にするな、俺だってもう２９……」
「いや、そーいうことじゃなくてな。まぁいいや、早速俺の番号とメアド登録しちまおうぜ」

　俺から携帯を取り上げ、何かを操作して山本は携帯同士を向き合わせて持った。
　軽い電子音を鳴らしたと思えば、山本が俺に携帯を返してきた。

「これで、俺のアドレス入ったし。お前のも登録した」
「悪いな、わざわざ」
「いいや。つか、本当よく一人で買えたな。結構契約すんのに、あれこれ店員と喋るだろ？」
「ああ、それが……」

　担当してくれた店員さんが、とてもいい人だったと昼間の事を話す。
　すると、山本は目を剥いたかと思うと大きく息を吐き、肩を下げた。

「……おまえなぁ」
「な、なんだよ」

　肩を掴まれ、俺は項垂れる山本を驚いて見返す。
　大袈裟な溜息と、呆れた表情で、山本は俺をじっと見つめてきた。

「やっぱ、外出さない方がいいかもな。お前」
「なんでだよ？」
「あー、浜口に頼んで首輪買ってきてもらうかなー」

　本気とも冗談ともつかない呟きを洩らし、山本は冷蔵庫へビールを取りに歩いていった。




　…………………………………

　という感じで、その後の二人でございました。
　シマネコこと西村君は、少しずつ社会復帰しつつ。
　山本は山本で、それを見守りつつ堂々と嫉妬出来る立場になった喜びとの板挟みに、苦しんでる日々のようです。
　二人は相変わらず、元気です。

　

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