オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
夢から醒めた朝、俺は初めて仕事を休んだ。
もう一月後に迫った、結婚式を考え、俺は最後の悪足掻きに出る事に決めたのだ。
夏紀が、静かに笑いながら背中を押す。
優柔不断な俺が、生まれて初めて取ったそれは、即断即決の行動だった。
***
「あんた、会社休んだのに出かけんの?」
玄関で、出産を控え実家に戻ってきていた姉に声を掛けられ、俺は明らかに動揺した顔を向けた。
訝る姉の視線に、視線を逸らせば、ちょうど段差でいい位置にあった俺の脛を蹴飛ばされた。
「何おねーちゃんに隠し事してるかなぁ、賢ちゃん」
「ぐ……っ、由梨に、会いに行くんだ」
「その割には、少しも楽しそうな雰囲気じゃないんですけど?――まるで、別れ話しにいくみたいな顔してる、お前」
鋭い視線と指摘に、俺は姉貴の顔を凝視した。
厳しい表情で、姉は俺の顔を見上げてくる。
「そのまさか、なワケ?」
「……詳しくは、帰ってきて話す」
「決定なの? お母さんたちには、なんて前振りしとくべき?」
「俺が、帰ってきて全部話す!」
「由梨ちゃん何不満よ? 彼女以外に、あんたみたいな頭固い融通利かない、そのくせ優柔不断な男愛してくれる奇特な奴いるわけ?」
「由梨は申し分ない、素敵な女性だ。問題は俺にある。……いるんだ、いや、そういう存在に、俺がなって欲しいと思ってる奴が一人いる。姉貴は……」
からかうでもなく、相変わらず真剣な顔で俺を見つめてくる姉貴に、俺は躊躇いがちに訊ねた。
この決心は、下手をすれば家族との決別も覚悟しなければならない。
長男として、親に何も返せないうちに家を出るとなれば、それは心苦しいと思う所がある。
両親にも、姉にも。悪いと、思う。
そんな戸惑いを抱えたまま、俺は姉貴に訊ねた。
「その相手が、男だったとしても……俺を、軽蔑しないか」
一瞬、玄関を無音が支配した。
生まれて初めて、姉が面食らう顔と言う物を見た俺は、踵を返し玄関の扉に手を掛けようとした。
その俺の背中に、掠れた姉の声が掛かる。
「お前のお姉ちゃんを見くびるなよ、賢。あたしは、結婚に関してはプロよ? 破局するカップル何組見てきたと思ってんの。別に驚きゃしないわ、今更……弟に男が出来たって」
「姉貴……」
「あんた、ただでさえ人間関係築くの下手なのに。これ以上世間に敵作ってどうすんの? てか、確実に一人の女性を敵に回すわよ、あんた」
「覚悟の上だ」
「馬鹿だね、本当にこの弟は。もっとそういうのは、早く気付けっての。あー、もう折角手配したあの式場どーすんのよ。馬鹿、無駄にしやがって! お腹に子供さえいなきゃ、回し蹴りしてたのに!」
「悪い……姉貴」
「簡単に許すか、ばーか! あんた、一生あたしの下僕決定だからね! ……だからちゃんと、カレシ紹介しなさいよ、一緒に怒鳴りつけてやるから! 子供の面倒だって押しつけるから覚悟しとけよ!」
姉貴はそう言い捨てて、部屋に足早に戻って行った。
荒々しい音を立てて、ダイニングテーブルに当たる音を聞きながら、俺は玄関を静かに開けた。
***
朝のうちに連絡をしていた由梨を、俺は由梨が住む近所の公園で、噴水前のベンチに座り待っていた。
平日の突然の呼び出しに、当然訝った由梨だったが、俺が話があると言った声に何かを感じ取ったらしい。
不思議と、緊張感も何もない。
これから切り出すのが、別れ話だというのに。
由梨に申し訳ないと思う気持ち以上に、何か……重荷が無くなるような、解放感。
俺は密かに、それを感じていた。
「……他に、好きな人がいる?」
昼時で人気の多い公園に、由梨の静かな呟きが響いた。
現れるなり、単刀直入に婚約を解消し、付き合いも考えたいと切り出した俺を、由梨は眼を逸らさず見つめて来た。
声も荒げず、激昂することもなく。
「二股なんて真似、賢に出来たんだ。しかも、向こうを取るなんて………びっくりだよ」
「……悪い」
「わたしより可愛い? 綺麗? そんなに魅力的な人なの?」
「綺麗で、強い……男、だ。それを俺は踏みにじり、ボロボロにした。一生かけてその償いを、俺はしていきたい」
「男? お、男の人と……わたしを……なんで!」
「考えて、あいつを選んだ。由梨には俺なんかより、もっといい相手を選んでほしい」
「なんで、わたしが……っ! その人にだって、賢以外の人が出来るでしょ!?」
初めて感情を露にした由梨に、俺は首を横に振った。
「もしそんな事があったら、俺が耐えられない」
「わたしはいいの!?」
「……お前が他の男といれば、しばらくは当然胸は痛むだろう。でも、その相手からお前を奪い返す気にはもう、なれないんだ」
言い終わると同時に、勢いよく平手が飛んで来た。涙の盛り上がる目尻に、思わず伸ばしかけた手を叩き弾かれる。
俺は、深く由梨に頭を下げた。
顔はもう、直視出来ない。
「長い間、ありがとう。由梨。お前と過ごした日々は、確かに安らげたし楽しかった。……不誠実で、すまん」
「……っ!最低男!」
走り去る背中が、花壇の向こうに見えなくなるまで見送り、俺はベンチに腰を降ろした。
最低だと、本当に思う。
一人の女性の、人生を間違いなく狂わせた。
俺がもっとはっきりとしていれば、由梨をこの日まで待たせずに済んだのかもしれない。
一瞬、式場で見たウェディングドレス姿の由梨が、嬉しそうに微笑んだ顔を思い出し、もう一度胸の内ですまないと呟いた。
退路は、これで断った。
あとは、賭けだ。
あいつが、こんな俺を選ぶかどうかの。
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【俺様×健気】【ヘタレ×女王様】
萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。