オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
それは、不思議な夢だった。
三人で初めて会った日に行った居酒屋に、夏紀が一人でカウンターに座っていた。
誰も客のいない、店内を不審に思いながら、俺は夏紀の隣へ座る。
いや、座るように促された。
「相変わらず、難しい顔してるな。賢は」
「……生まれつきだ」
「知ってる。で、俺にそろそろ、頼りたくなった事ないか?」
子供の頃から変わらない、全てを見通す済んだ瞳に見つめられ、俺は思わず視線を逸らした。
いつの間にか、目の前に置いてあったグラスに手を伸ばし、口を付ける。
二人で酒を覚え始めた頃、よく飲んだ焼酎の味がそれはした。
「お前に頼るのは、筋違いだとわかっている。でも、俺一人では決断が出来ない」
「聞いてやるから、話せよ」
夏紀もグラスを煽るのを横目で長め、深い息を一つ吐いた。
どう切り出すか、しばらく逡巡した後、一言吐き出す。
「……由梨の、ことだ」
「結婚式決まったんだってな、おめでとう」
少しも、喜ぶ素振りのない夏紀に眉根を寄せ、俺は言葉を継いだ。
見透かされている俺の心を、写す鏡のようだ。
「由梨を、幸せに俺はできるだろうか」
「それはまた漠然とした、難しい質問だな」
「そうだな。幸せにするというのが……俺には、ただの努力義務にしか、思えない」
「自然発生的な、欲求じゃないってことか?」
「本来ならば、それが正しいとわかっている。本当に大切で、愛している相手ならば……きっと、努力だなど思わない」
「それは、お前の価値観の問題だろ。努力する人は、いくらでもいる」
「だとすれば、俺に意に沿わないんだ。恐らく、ずっと、この先も俺は……由梨を、愛する努力をすることになる」
「他に、好きな相手がいるからか?」
ちびりちびりと、グラスを舐めながら訊ねた夏紀に、俺は自嘲の笑みを浮かべた。
「わからない。好きだとか、愛しているだとか、考えた事も無い。ただ、俺が支えてやりたいとは思う。あいつが、許すならば」
「なら、正直な道を選べばいい。お前がしたいことを」
「それが、世間的に許されない道であってもか?」
「お前がそうしたいんだろ? だったら、俺はそれを応援する」
静かに応えた夏紀の声に、俺は不覚にも目の奥が痛くなった。
誰も、誰にも、話す事が出来なかった。吐き出す事の出来なかった胸の内を、夏紀は素直に肯定してくれる。
誰かに、たった一人でいいから、俺は背中を押して貰いたかった。
あいつの元へ、動き出す一歩を。
「賢、一つだけアドバイスだ」
「ああ」
「お前の気持ちはよーっく、わかった。けどな、やってきた過去や行為は、消えないし消せない。――お前、これ以上志賀泣かせたら、俺本気で化けて出るぞ!」
腕を掴まれ、懐かしい大声で叱責され。
俺の涙腺は、完全におかしくなった。
「今度こそ、迷うなよ! 進めよ、間違えるな! お前らは、俺が引き合わせたんだから間違いないんだ!」
背中を摩る、夏紀の温かい掌に誘われ、流れる涙を俺は止めようが無かった。
ただ、静かに、夏紀は嗚咽を漏らす俺の背中を、優しく撫で続けてくれた。
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【俺様×健気】【ヘタレ×女王様】
萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。