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オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。

2024年11月15日 (Fri)
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2009年10月22日 (Thu)

 過去編5話。――自覚と、現実。

拍手[1回]



「……結婚式の、招待状? 用って……、これかよ」
「勘違いするな、姉貴のだ」

 妙な会話だ。
 落胆の色を見せた志賀に、俺は宥めるような言い訳をしてみせた。
 封筒の裏に印刷された姉と新郎の名前に、安堵した顔の志賀を見つめながら、煙草を咥える。
 志賀が、実際俺に対しどんな感情を抱いているのか、尋ねたことはない。
 今の反応が、どういう意味なのか……考えても答えの見えない事を考えながら、煙を吸い込んだ。

「賢とこも、もうすぐなんだろ?」
「……ああ、年明けには結納予定だ」
「じゃ、賢の式に出ない代わりにお姉さんの出るか」

 招待状に目を落としたまま、明るい声で話す志賀に、俺は心臓を掴まれるような痛みに襲われた。
 志賀は、元来の前向きな性格と持ち前の明るさが、この二年で大分戻ってきていた。
 由梨の存在も、その関係も、責めるどころかひたすら陰に徹する勢いだ。
 俺の将来を思い、いい加減切り捨てる覚悟をしろとまで迫る。
 引き止めているのは、俺だ。
 踏ん切りが、つかないまま、ずるずるとこの名も無い関係を引き伸ばしている。

「友達面して、お前の式には行けねぇだろ。てか、友達じゃねーしな」
「……祐司」
「都合悪いと、お前名前呼んでごまかすよな」

 困ったように笑う志賀に、俺は腕を伸ばしていた。
 そのまま、素直に抱き竦められた志賀の髪に、顔を埋める

「……こういうのは、由梨ちゃんにしてやれよ」

 抱き返す事のない志賀に、焦れてますます俺は力を込めて抱き締めた。
 何を伝えたらいいのか、わからない。
 選ばなければいけない道は、一つだけだとわかっているのに。
 このまま、手を離してしまえば。一生、二度と捕まえる事が出来ない恐怖は、あの時夏紀が奪い取りに来ると感じた恐怖に似ていた。
 名前を呼ぶことで、占有意識を持ち、少しでも一緒に時を過ごすだけで、心が軽くなる。
 今更偽り様のない志賀の前では、唯一俺は心許せる安堵をさえ感じるようになっていた。
 この温もりと、意思の強い瞳。
 それがただ、明確に俺のモノにはならない現実。

「もう、俺大丈夫だし。賢は賢で、ちゃんと由梨ちゃん大事にしてやれよ」
「……わかっている」
「お前の人生狂わせる方が、俺なっちゃんに悪いよ。なっちゃんは、お前の幸せ絶対祈ってるはずだし、邪魔できねーよ」
「祐司」
「俺から、解放してやるよ、賢。本当にもう、これ以上ウチ来んなよ。大事にしなきゃなんねぇ相手、間違えんな」

 肩に当たる額も、腕の中の背中も、細かく震えているのがわかった。
 初めから、わかっていた選択だというのに、俺は頷けなかった。

 ただ、その夜は寄り添うように祐司を、抱き締め続けた。

 

 


 

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