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オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。

2024年11月15日 (Fri)
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2009年10月24日 (Sat)

 過去編7話。 ――最後の悪足掻き。

拍手[1回]



 澄み渡る冬の青空を見上げ、俺はこれから取り交わす結納に溜息をついた。
 白い吐息が、薄れながら消えていく様に、あいつの背中を思い出す。
 ……選択したのは、俺だ。あいつも、受け入れた。
 間違えてはいないはずの選択が、胃を締めつける。

「賢、結納に緊張するものじゃないぞ」

  不意に背中を父に叩かれ、俺は慌てて首を巡らせた。

「もっと嬉しそうにしないか、おまえは本当に難しい顔ばかりしてだな」
「まあまあ、お父さん」

 小言を言い出した父を宥める母に、俺は苦笑を返した。
 そう、考えるのは由梨の事だけだ。
 ――それで、いいはずだ。
 言い聞かせるように、俺は胸を占める思いにそう、言い聞かせた。

  ***


『ね、招待状の宛名書き進んでる?』
「ああ……間もなく終わるな」
『賢ちゃんに押し付けて、ごめんね』
「構わない、男が役に立つのはこれぐらいだからな」

 リスト片手に、電話の向こうの由梨を思い俺は口許を緩めた。
 由梨たっての希望で、6月に挙式をすることになった。
 月日はあっという間に流れ、準備も滞りなく進んでいる。
 着実に、新し生活への準備が、整っていくのを、どこか傍観者の気分で見ている俺を置いて。
 奇しくも、会場を押さえた俺達の挙式の日は――夏紀の命日、前日だった。

「他に問題はないか?」
『問題? んー……あるよ、賢ちゃんが構ってくれない。本当にわたしが好きかなって、わかんない』
「由梨」
『冗談だよ。でも、マリッジブルーってあるんだから、ちゃんと支えてね』
「わかったよ」

 一瞬、胸を突かれた。
 由梨を愛している、その態度や気持ちに、疑念が沸くような隙が、俺のどこかにあるのか。

『じゃあね、賢ちゃん。おやすみ』
「おやすみ」

 俺の中に沸いた疑念に気付く事なく、由梨は電話を切った。
 書きかけの招待状を見つめ、俺は二つ避けて置いた封筒を掴み上げた。

「……あいつを呼ぶのは、残酷だと思うか? 夏紀」

 一通は夏紀へ、家族に宛て送る。
 もう一通は……迷いに迷ったが、あいつへ、祐司へ送るつもりだ。
 年末に最後に抱いて以来、顔も声もどうしているかも、知らない。
 一度だけ、メールが来ただけだ。
 祐司の部屋に置いてあった、俺の私物をどうしたらいいかと。

「……まだ、迷うのか」

 眼前にある、彩られた幸せが、一瞬霞む。
 夏紀がいたら、夏紀がもし言っていたように、『運命の魂の片割れ』を見つけてくれていたならば。
 仮にその相手が、男であっても、俺は悩むことはなかったのだろうか。
 あいつの言葉は、根拠はなくとも俺は全幅の信頼を置いていた。
 そんな、不思議な男だった。
 優柔不断に陥りやすい俺を、導いてくれていた幼馴染。
 頼る相手がいなくなった今、俺は自分で下す決断に自身が持てない。
 だからきっと……、迷っている。

 招待状を発送した、その夜。
 俺は久しぶりに、夏紀の夢を見た。

 


 

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