共犯関係（改訂版）

　同罪だろ、これって。

【問題】
　“共犯”で妄想してください。

　※投稿時の内容に対し加筆訂正を大幅にしております

「お兄ちゃん、いつまでパンツ一丁でふらふらしてんの！」

　キンキン響く妹の声に眉をしかめて、俺は渋々その辺に積んであったスエットのズボンを掴んだ。

「別に今更、気取る相手でもねーだろ」
「そういう問題じゃないの、一般常識としてお客様迎える恰好じゃないでしょ！　それ！」

　指を突き付けられ、肩を竦める。
　小言から逃れるのと、煙草を吸うのとでベランダに出たら、ちょうど歩いてくる人影が見えた。

「珠子、来たぞ」
「だったら早く服着なさいよ、バカ兄貴！」

　どやされるまま、俺は部屋煙草を揉み消し部屋へ戻った。


　　＊＊＊

「なんか、変だね」
「……まぁな」

　夕飯の支度をするのに、買い物に出た珠子。
　狭い家には、俺と……あと半年したら珠子の旦那になる梶原の二人きりだった。
　梶原は、俺の同級生だった。
　中学高校と、ほぼ毎日つるんでいた。
　家にもしょっちゅう来ては、泊まって行った。

「今夜、泊まってくんだろ？」
「ああ、そのつもり」
「久しぶりにするか？　『実験』」

　俺の言葉に、梶原の肩が跳ねる。
　その様子に、俺は口角を吊り上げた。

「その一、珠子にバレない実験。その二、おまえがそんな真似されても結婚出来るかって実験。……実験方法は簡単、いつもより濃厚なセックス」

　梶原は顔を伏せ、テーブルに置いた指を白くなるほど握り締めた。
　最初は、簡単な実験だった。
　アナルセックスが、本当に出来るのか。
　後ろだけで絶頂にイケるのか、ところてんは可能か。
　感情を伴わない、ただの純粋な興味からの行為。
　単に俺がやってみたかったその行為を、梶原は拒絶しなかった。
　しないままズルズルと、続いた関係に新たな『実験要素』が加わったのは――コイツが、突然珠子と結婚すると言い出したからだ。

『愛してない女性を、どこまで欺けるかの実験だよ』

　俺はその言葉を、鼻で笑った。
　だが梶原の目は、本気だった。
　珠子に対する本気ではなく、この結婚があくまで『実験』である本気。
　珠子を騙すことをあらかじめ宣言する梶原に、俺は真意を何度も問い詰めたが、実験途中だからとはぐらかされ続けていた。

「……お兄ちゃん的には、やっぱり珠子ちゃんを大事にしない俺は、憎い？」
「そう仕向けるのが、おまえの魂胆かよ」
「いや」

　正直、複雑だった。
　梶原は、既に両親他界して、ダメな兄貴の世話してる珠子のために、結婚後この家で同居することになっている。
　毎日、梶原がいる生活。
　……その内何度、珠子を裏切り続けるのか。
　そもそもそれが、裏切りなのかどうか。

「おまえは反対しなかった、この実験になにひとつ。恨むなら筋違いだよ？」
「釘刺すなよ。刺すのはおまえのアナルだけで十分だ」

　茶化した俺に、梶原は顔を赤らめた。
　そうだ。
　妹を欺く事を、俺はわかっていて承諾した。
　このふざけた『実験』を、受け入れた。

「俺達は、共犯なんだからな」
「そう、共犯だよ。……ずっと」

　珠子、すまん。
　おまえの兄貴は、本気でバカなダメ兄貴だ。
　最低最悪だ。
　おまえの幸せなんかより、俺の興味本位が勝った。

　おまえに嘘でも、優しいふりをする梶原に苛々したり。
　労る梶原に、ムカついたり。
　形だけだってわかっている、夫婦の営みに興奮したり。

　これは梶原から、俺がどれぐらい耐えられるか突き付けられた挑戦状だ。
　珠子、兄ちゃんがいつか梶原を連れて駆け落ちしても……探さないでくれ。




　……………………

　お兄ちゃん最低。…というお話。
　投稿時、前半部分を書きかけ途中で送信するという間抜けをしてしまった思い出が…orz
　「共犯」としては、軽いのかもしれないけれど…精神的には珠子ちゃんが被る苦痛は、大きいだろうな。



　
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