オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
ばぁちゃんが、よく口ずさんでいた歌。
そのワンフレーズを、身を持って体験する日が来るなんて、思いもしなかった。
「カケル、出来た? 頼んでたヤツ」
「……あのなぁ姉ちゃん、俺一応受験生。そっちより、勉強優先なんだけど」
「ちょっと! あたしの計画パァにする気!?」
「俺の人生棒に振る気かよ!」
呆れる俺に構わず、まくし立てる姉の態度に溜息をつきつつ、俺は通学バッグを引き寄せた。
中から、手芸店のロゴの入った袋を取り出す。
「ちまちまやってるから、まだこれだけ」
「ちょっと! 間に合うの?」
知るか。
姉ちゃんは、可哀相だが残念な親父に似て、ちょっと残念な部類に入る顔立ちだ。
俺も、残念な両親の低身長を継いで、見事にチビで残念だが。
顔も、残念ながら、チビに似合わず厳つい。
そんな俺の趣味が、どうしてか裁縫や編物で。
姉ちゃんは、いまどきどうかと思う、手づくりセーターアプローチで、来るべきクリスマスまでに彼氏をゲットしたいらしい。
そこで、俺に白羽の矢が立てられた。
「期末終わったら、頑張るよ」
「もう! ちゃんとやってよ!」
鼻息が荒く出て行った姉ちゃんを見送り、俺は編みかけのセーターを袋にしまった。
しばらく考えてから、ベッド下の引き出しを引いて、その奥から同じ手芸店の袋を引っ張り出す。
「……やっぱ、気持ち悪いよな」
ほぼ完成してるセーターを取り出し、俺はそれを抱きしめた。
これは、誰も着ることのないセーターだ。
毛糸の無駄でしかない。
正直、姉ちゃんの頼まれ物より、俺はこっちに時間を割いていた。
「……着てはもらえぬ、セーターを……か」
ばぁちゃんが、思い出したように歌っていた歌。
ばぁちゃんは、本当に結婚したかった人と添い遂げられなかったと言った。
じぃちゃんも、生まれた母ちゃんも大事だけど、忘れられない、と。
冬になると、セーターを編みながら、あの歌とエピソードを俺は何度も聞かされた。
「未練かぁ」
まさか、ばぁちゃんの気持ちも、あの歌詞の意味も、痛感する日が来るなんて思わなかった。
袋に戻したセーターを、引き出し奥へしまい、俺は込み上げた鳴咽を飲み込もうとした。
今年で、3枚目になるセーター。
また、箪笥の肥やしになる運命だ。
………………
『冬の宿』がわかる方が、どれくらいいらっしゃるかですが。
個人的に昔から好きな歌であります。
昭和・恨み節・演歌…そんなBLも、あっていいと思います。
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好きな系統は、
【俺様×健気】【ヘタレ×女王様】
萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。