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オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。

2024年11月15日 (Fri)
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2009年07月03日 (Fri)

 第4話。この回完結です。

拍手[2回]



 僕は、3人兄弟の末っ子だ。
 兄二人とは、大分歳が離れて生まれ、半ば一人っ子状態で。
 両親も、兄達も、身体が小さくて言葉が遅かった僕に、めちゃくちゃ甘かった。
 全部先回りして、僕のしたいことや食べたいものを揃えてもらった、幼少期。
 だから、外の世界に出て、それが通じないことがわかったのが、僕の最初の躓きだった。
 自分の考えや、気持ちを話さなくても通じた兄達と違い、幼稚園ではわがままの烙印を押される程、周りからは浮いて。
 小学校に入ってからは、ますます周囲との溝が深まった。
 だから、僕は喋らなくなった。
 人の輪に、近づかなくなった
 僕がいるとつまらないと言われ、僕がいると円滑に事が進まないと言われたから。
 だからずっと、友達なんていなかった。

  ***

 そいつは、中学に入ってすぐに僕に声を掛けて来た。

「一人でいても、つまんないだろ? 弁当一緒に食べよ?」

 小学校から持ち上がりのメンバーではなくて、別の小学校から来た奴で。
 沢田という奴だった。
 バスケ部で背が高く、勉強も学年でトップクラス。
 学校ではテストくらいしか、見せ場のなかった僕には眩しくて遠い存在。
 何をするにも、僕を誘って、学校ではいつも一緒だった。
 友達、いや親友なんだと、僕はずっと信じていた。
 ――あの日までは。

「え? 日曜日?」
「う、うん。映画ねタダ券、兄に貰ったからどうかな、て」
「あー……いや悪い、その日は俺の行ってる塾で、模試なんだわ」
「そう……仕方ないね」

 学校では、どれだけ一緒でも、休日一緒に遊んだことのなかった僕は、思い切って沢田に声をかけた。
 相手に事情があるなら仕方ない、そう諦めるたその日の放課後。
 たまたま遅くまで学校に残っていたら、部活帰りの沢田達の会話を玄関脇で聞いてしまった。

「マジ、ウケる! 何あいつ、沢田にベタ惚れってか」
「だろー、俺も罪な男って感じ? でも勘弁しろよ、休みの日まであの欝陶しいの相手出来るかよ」
「せっかくのデートのお誘い、断ったんスか、旦那」
「お持ち帰りアリだったんじゃねーの?」
「ふざけんなよ、あんなヤツとは学校で顔見るだけで充分だっつの。大体、喰うとこなさそうなチビでガリだぜ? たく、卒業まで大人しく、俺に従ってろっての」
「亭主関白!」
「だからきしょい事言ってんじゃねーよ、あんなヤツ内申の為に面倒見てるだけなんだから」

 聞こえた会話の内容が、理解出来なかった。
 いつも鈍臭い僕を待っててくれた沢田、時々クラスで絡まれた僕を庇ってくれた沢田が。

 全部、嘘、だったんだ。


 ***

「……高見」
「だ、だから、山浦が怖いんだ。僕を、からかうだけなら、もうやめて、お願い、近づかないで」

 もう、あんな絶望を感じるのは嫌だ。
 期待を、裏切られるのは嫌だ。

  そっと、離れようと腕を突っぱねようとしたけど、山浦はそれを許してくれなかった。

「……ねぇ、高見」
「は、はい」
「その沢田某氏には、こんな真似させなかった?」
「え?」
「親友装って、襲われなかった?」

 とん、と軽く押されて、僕の身体はベッドに倒れ込んだ。
 両腕を頭の脇で押さえつけて、山浦は綺麗な顔に貼付けた笑顔を浮かべた。

「な、何を……」
「俺は、高見に対して、もっとコレ以上したいくらいの下心持ってるよ」

 そう言って、肩口に山浦は顔を寄せて来た。
 僕の頬に、山浦が吸い付く。

「この可愛い顔、赤ちゃんみたいな肌を撫でて、吸って、俺を全部刻み付けたい。――俺が、高見に望んでるのは、そういう関係だよ?」

 真剣な眼差しが、すぐ近くで僕を射抜く。

「高見の全部受け止めたら、高見も俺に全部くれる?」

しばらく僕は、山浦の顔を見つめた。
 全部って、なんだろう。
 でも、それで山浦は僕の傍にいてくれるんだろうか。
 欝陶しいとか、面倒臭い奴だって、思われないんだろうか。

「い、いいよ」

 散々迷って答えれば、山浦は一瞬間を置いて吹き出した。

「高見、全っ然俺の希望、わかってないでしょ」
「な、ぜ、全部欲しいんでしょ? だから、あげるって」
「全部だよ? 心も、俺にくれる?」
「え……」
「高見になら、俺は全部あげちゃう。もう、いくらでもあげちゃう。大好き、超愛してる」
「な、なんか軽い!」
「言ったでしょーが、俺性欲は濃いけど誠意は薄いって。それでもいい? こんな俺でいい? ……これでもかなり、マジなんですけど」

 優しい笑顔で、僕を見つめて。
 山浦は、身を屈めてまた僕に顔を寄せて来た。
 軽く、唇に唇が触れる。

 「ぼ…僕こそ、こんな僕で、いいの?」
「すっごい、いい。高見がいい」

 ぎゅっと抱きしめてくる山浦に、僕は目を閉じた。
 少し、信じてもいいだろうか。
 まだ、完璧ではないけど……多分それはお互い様だ。
 だけど、こんな僕でいいなら。

「……山浦、あの、あのさ」
「ん?」
「僕も、少しだけ……す、好きだよ。山浦」
「うん、そのうち全部にするから大丈夫。そのくらいマイナススタートの方が、燃えるから」
「何、その自信」
「俺の予言。必ず当たるから」

 山浦は笑って、そう宣言した。


  ***


 それから、少しだけ僕と山浦の距離は縮まった。
 山浦は相変わらず、今日も僕の後ろの席で、クラスの女子を集めては盛り上がっている。

「ねぇ~山浦、いい加減あたしと付き合おうよ」
「ユリちゃんと?」
「えぇっ、マコと付き合ってくれるって言ってたでしょ~」
「ん~」
「私も」

 だらし無い顔で、ヘラヘラしている山浦を、僕は背中越しに軽く睨んだ。

「ちょっと、根暗睨んでるんだけど」
「うわ、ウザ! キモッ」

 キャアキャア騒ぐ女子達に、山浦は肩を竦めた。
 眼を細め、低い声で呟く。

「うん、ウザいよね。キミら」
「は?」
「高見からしたら、ウザいのキミらだからお開きね」
「はぁぁぁ!?」

 山浦は騒ぐ女子を、しっしっと追い払うと僕の方に向き直った。

「高見」
「……何?」
「今日は一緒に帰ろうね」
「は?」
「お付き合いの、第一歩」

 笑いかけてくる山浦から眼を逸らし、僕は落ち着かない気持ちで放課後まで過ごす羽目になった。

 

 僕らはそうやって、ゆっくり、お互いの一番を目指して歩き出したのだった。


  ――No.1 完――
 

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