オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
僕は、3人兄弟の末っ子だ。
兄二人とは、大分歳が離れて生まれ、半ば一人っ子状態で。
両親も、兄達も、身体が小さくて言葉が遅かった僕に、めちゃくちゃ甘かった。
全部先回りして、僕のしたいことや食べたいものを揃えてもらった、幼少期。
だから、外の世界に出て、それが通じないことがわかったのが、僕の最初の躓きだった。
自分の考えや、気持ちを話さなくても通じた兄達と違い、幼稚園ではわがままの烙印を押される程、周りからは浮いて。
小学校に入ってからは、ますます周囲との溝が深まった。
だから、僕は喋らなくなった。
人の輪に、近づかなくなった
僕がいるとつまらないと言われ、僕がいると円滑に事が進まないと言われたから。
だからずっと、友達なんていなかった。
***
そいつは、中学に入ってすぐに僕に声を掛けて来た。
「一人でいても、つまんないだろ? 弁当一緒に食べよ?」
小学校から持ち上がりのメンバーではなくて、別の小学校から来た奴で。
沢田という奴だった。
バスケ部で背が高く、勉強も学年でトップクラス。
学校ではテストくらいしか、見せ場のなかった僕には眩しくて遠い存在。
何をするにも、僕を誘って、学校ではいつも一緒だった。
友達、いや親友なんだと、僕はずっと信じていた。
――あの日までは。
「え? 日曜日?」
「う、うん。映画ねタダ券、兄に貰ったからどうかな、て」
「あー……いや悪い、その日は俺の行ってる塾で、模試なんだわ」
「そう……仕方ないね」
学校では、どれだけ一緒でも、休日一緒に遊んだことのなかった僕は、思い切って沢田に声をかけた。
相手に事情があるなら仕方ない、そう諦めるたその日の放課後。
たまたま遅くまで学校に残っていたら、部活帰りの沢田達の会話を玄関脇で聞いてしまった。
「マジ、ウケる! 何あいつ、沢田にベタ惚れってか」
「だろー、俺も罪な男って感じ? でも勘弁しろよ、休みの日まであの欝陶しいの相手出来るかよ」
「せっかくのデートのお誘い、断ったんスか、旦那」
「お持ち帰りアリだったんじゃねーの?」
「ふざけんなよ、あんなヤツとは学校で顔見るだけで充分だっつの。大体、喰うとこなさそうなチビでガリだぜ? たく、卒業まで大人しく、俺に従ってろっての」
「亭主関白!」
「だからきしょい事言ってんじゃねーよ、あんなヤツ内申の為に面倒見てるだけなんだから」
聞こえた会話の内容が、理解出来なかった。
いつも鈍臭い僕を待っててくれた沢田、時々クラスで絡まれた僕を庇ってくれた沢田が。
全部、嘘、だったんだ。
***
「……高見」
「だ、だから、山浦が怖いんだ。僕を、からかうだけなら、もうやめて、お願い、近づかないで」
もう、あんな絶望を感じるのは嫌だ。
期待を、裏切られるのは嫌だ。
そっと、離れようと腕を突っぱねようとしたけど、山浦はそれを許してくれなかった。
「……ねぇ、高見」
「は、はい」
「その沢田某氏には、こんな真似させなかった?」
「え?」
「親友装って、襲われなかった?」
とん、と軽く押されて、僕の身体はベッドに倒れ込んだ。
両腕を頭の脇で押さえつけて、山浦は綺麗な顔に貼付けた笑顔を浮かべた。
「な、何を……」
「俺は、高見に対して、もっとコレ以上したいくらいの下心持ってるよ」
そう言って、肩口に山浦は顔を寄せて来た。
僕の頬に、山浦が吸い付く。
「この可愛い顔、赤ちゃんみたいな肌を撫でて、吸って、俺を全部刻み付けたい。――俺が、高見に望んでるのは、そういう関係だよ?」
真剣な眼差しが、すぐ近くで僕を射抜く。
「高見の全部受け止めたら、高見も俺に全部くれる?」
しばらく僕は、山浦の顔を見つめた。
全部って、なんだろう。
でも、それで山浦は僕の傍にいてくれるんだろうか。
欝陶しいとか、面倒臭い奴だって、思われないんだろうか。
「い、いいよ」
散々迷って答えれば、山浦は一瞬間を置いて吹き出した。
「高見、全っ然俺の希望、わかってないでしょ」
「な、ぜ、全部欲しいんでしょ? だから、あげるって」
「全部だよ? 心も、俺にくれる?」
「え……」
「高見になら、俺は全部あげちゃう。もう、いくらでもあげちゃう。大好き、超愛してる」
「な、なんか軽い!」
「言ったでしょーが、俺性欲は濃いけど誠意は薄いって。それでもいい? こんな俺でいい? ……これでもかなり、マジなんですけど」
優しい笑顔で、僕を見つめて。
山浦は、身を屈めてまた僕に顔を寄せて来た。
軽く、唇に唇が触れる。
「ぼ…僕こそ、こんな僕で、いいの?」
「すっごい、いい。高見がいい」
ぎゅっと抱きしめてくる山浦に、僕は目を閉じた。
少し、信じてもいいだろうか。
まだ、完璧ではないけど……多分それはお互い様だ。
だけど、こんな僕でいいなら。
「……山浦、あの、あのさ」
「ん?」
「僕も、少しだけ……す、好きだよ。山浦」
「うん、そのうち全部にするから大丈夫。そのくらいマイナススタートの方が、燃えるから」
「何、その自信」
「俺の予言。必ず当たるから」
山浦は笑って、そう宣言した。
***
それから、少しだけ僕と山浦の距離は縮まった。
山浦は相変わらず、今日も僕の後ろの席で、クラスの女子を集めては盛り上がっている。
「ねぇ~山浦、いい加減あたしと付き合おうよ」
「ユリちゃんと?」
「えぇっ、マコと付き合ってくれるって言ってたでしょ~」
「ん~」
「私も」
だらし無い顔で、ヘラヘラしている山浦を、僕は背中越しに軽く睨んだ。
「ちょっと、根暗睨んでるんだけど」
「うわ、ウザ! キモッ」
キャアキャア騒ぐ女子達に、山浦は肩を竦めた。
眼を細め、低い声で呟く。
「うん、ウザいよね。キミら」
「は?」
「高見からしたら、ウザいのキミらだからお開きね」
「はぁぁぁ!?」
山浦は騒ぐ女子を、しっしっと追い払うと僕の方に向き直った。
「高見」
「……何?」
「今日は一緒に帰ろうね」
「は?」
「お付き合いの、第一歩」
笑いかけてくる山浦から眼を逸らし、僕は落ち着かない気持ちで放課後まで過ごす羽目になった。
僕らはそうやって、ゆっくり、お互いの一番を目指して歩き出したのだった。
――No.1 完――
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萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。