オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
誰も、いない。
芦名泉は、殺していた息をゆっくり、吐き出した。
放課後、日課になっている『彼ら』への『奉仕』。その為に通う、今は使われていないプレハブの生徒会室の中を伺い、泉は薄暗い室内に歩を進めた。
重い溜息と共に、声に出さず泉は呟く。
(…なんで俺が…)
入学した頃は、普通に周囲に溶け込んでいた。豹変したのは、5月の連休が明けた頃。
理由もわからず、突然世界が一変した。
「あっれ~、泉ちゃんまだ来てねぇ?」
びくりと、泉は身を竦めた。
室内に入って来た彼らの死角であるソファーの陰にいたために、気付かれていないようだ。
先頭で入って来たのは、プールに自分を突き落とした木村だった。
泉の身体は、自然に震え出す。早く出なければ、と思いながらも、身体が動かない。
まだ、汚れた水を飲み込み、意識が遠退いた感覚は、生々しく残っている。
「昨夜あんな目に遭って、逃げたんじゃねーの? 殺されかけたんだからな」
割り込んだリーダー格樋渡の声に、泉はふと安堵した自分に気付いた。
「……は? 普通にガッコ来てたろ」
「アレ、幽霊だったりしてな。俺ら以外には見えてねーの」
冗談めかして言い放った樋渡に、木村は反論出来ないようだ。
そう、誰も確かめに来なかった。
プールサイドで目覚めた時、傍に居たのは、自分と同じようにずぶ濡れの樋渡一人だけだった。
互いの冷たい身体を擦り合わせるように、抱きしめられていた感覚が蘇る
「ちっ、泉ちゃんいねーなら帰るわ。おめーらも付き合え」
複数の足音とざわめきが、遠ざかって行く。
泉は改めて、緊張の糸を解いた。
「やっぱ、俺にしか見えてねーのか。あいつら気付かねぇって」
頭上から降って来た声に、泉は大きく振り仰いだ。
腕組みをし、自分を見下ろす眼差しに、泉の鼓動が跳ね上がる。
「よう、幽霊」
「生き……てる、俺は生きてるよ!」
「どうだかな、昨日は死体みてぇに冷たかった」
屈んだ樋渡が、手を伸ばしてくる。泉は条件反射で、身体を強張らせた。
一瞬、樋渡の眼が軽く細められる。
「触れる幽霊って、いるんだな」
「幽霊じゃな……っ」
ゆっくりと、樋渡の指が頬を撫で、唇に触れた。
「感謝しろよ?俺が人口呼吸してやったんだからな」
唇を撫でる指の感触に、泉は思わず瞼を閉じた。
その直後、指ではない温かい感触が、唇に触れる。
「え……?」
「生存確認終了」
振り返る事なく、樋渡は部屋を出ていく。
――今の、何?
泉は、自分の唇に触れしばらく動けなかった。
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最初に掲載した分に大幅加筆修正をしてます。
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萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。