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オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。

2024年11月15日 (Fri)
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2010年11月22日 (Mon)
 完結編です。
 

拍手[7回]


 
 ***


 11月21日、日曜日。

 薄曇りの天気で外遊びを諦めた甥は、大人しく持ち込んだ電車を床に走らせていた。
 亜樹は明らかに不機嫌な顔で、ソファーで組んだ脚を揺らしていた。
 無断で、祐司が夫の様子を見に行ったのが、気に入らないらしい。

「お節介」
「あいつも心配してるんだ、少しは折れてくれ」

 上手く話しが着けば、夕飯に義兄を誘うと言って出て行った祐司の事を話せば、亜樹は眉間に深い縦皺を刻んだ。
 こんな癖は良く似ていると、賢は思う。
 亜樹の強情さは嫌と言う程知っているが、この事態に誰よりも心を痛めているのが祐司だとなれば、構っていられない。
 正直関わるのはどうかと思うが、早期解決を図るのが得策だと賢は思った。

「大体、子供はどうするつもりなんだ? お袋に押し付けるのか?」

 一人で大人しく遊ぶ背中を眺め、亜樹は唇を引き結んだ。

「……そんな具体的な事悩んだら、本気で離婚考えなきゃじゃない」
「勢いだけでするもんじゃないだろ、結婚や離婚は」
「うわぁ、言うわね。男の嫁娶った奴が」

 茶化した亜樹の言葉に、賢は思わず押し黙る。
 意趣返しかと、姉を睨み据える。

「ま、あんたの堅さにはあの祐司君の緩さがちょうどいいんだろうけど。男がカタくて自慢出来んのなんて、アレだけで十分なんだけどー」
「おま……姉貴っ、子供の前で!」
「こんなの理解出来る一歳児だったら、どっかに売り込みするわよ」

 どうやっても、姉をやり込めることは不可能らしい。
 自分の話題かと目を丸くして振り返った、純真な甥っ子の眼差しに、賢は苦笑いを浮かべる。
 その時、リビングの固定電話が鳴った。

「祐司くん?」
「かもな」

 立ち上がり受話器を取る。
 だが、こちらから賢が呼び掛ける前に切羽詰まった叫び声が聞こえて来た。

「祐司!? どうしたっ!」
『マズイってヤバいって、ちょ、おにーさんっ! 賢ー! 助けっ』
『あいつが浮気するなら、俺だってーっ!』

 受話器越しに聞こえて来た絶叫と、義兄の言葉に、振り返った亜樹の口許が引き攣っている。
 床に押さえ込まれそうになっているのか、聞こえる物騒な物音に、受話器を握る指にも自然と力が篭る。

「賢、車出せる?」
「……ああ」
「りゅーう!現場に急行、出動よ!そ、おもちゃは後で取りに来るから!」

 小脇に息子を抱え上げ、玄関に向かう姉の後ろを、賢は受話器を叩き付け自動車の鍵を取り追い掛けた。


 ***



「……お騒がせして、申し訳ありませんでした」

 畳に額を擦り付け、土下座をする義兄に、賢と祐司は疲れた笑みを見せた。
 法定速度を遵守する賢の運転を、少しだけ荒くし辿り着いた姉夫婦の自宅。
 そこには、床に押し倒され、義兄に馬乗りされている祐司の姿があった。
 乱れた着衣に、必死に抵抗した証拠か乱れた髪に、賢の血が瞬間沸騰するより早く。
 隣の姉が、抱えていた息子を投げつけていた。

「や、それよりもりゅーくんの頭……」
「たんこぶだけなんで、大丈夫だ。本当に、悪かった」

 見事に父親の後頭部とぶつかった息子の頭を撫で、義兄――竜彦は情けない顔で謝罪を繰り返した。

「正に痛み分けていうか…マジで痛かったっつーか」

 明るい色の髪に、顎髭という風貌にも関わらず、妙に親近感が湧くのはこの性格のせいかもしれないと賢は思っていた。
 姉が最初、この竜彦と結婚をすると両親に紹介するため連れて来た時、母親は卒倒しかけた。
 それまで付き合ってたタイプとは明らかに異なる竜彦に、北森家は大騒動だった。
 だが、結局押し切ったのは、亜樹であり竜彦の誠意ある態度だった。
 その後賢が起こした騒動に比べれば、可愛いものだと亜樹は未だに嘯くが。

「ホストに現抜かすより、男にクラクラくる方が質悪いよな。いやー、亜樹の事言えねーわ」

 だって祐司君可愛いんだもんなー、とぼやく竜彦の息は、酒臭い。
 どうも昨夜、かなり深酒した上での、愚行だったらしい。
 賢は笑顔を見せながらも、炬燵の中でぐっと拳を握りしめた。

「そこの馬鹿、コンロ火つけて」

 両手で鍋を掴みながら現れた亜樹に背中を蹴られ、竜彦は卓上コンロのツマミを捻った。
 割り下に焼豆腐、葱などが入った鍋がその上に乗る。

「祐司君、鍋見ててくれる?これ、肉」
「あ、はい!」

 子供用椅子に息子を座らせ、竜彦が取り皿を並べて行く。
 鍋がぐつぐつと音を立てる中へ、牛肉を入れる。
 亜樹はワインと日本酒の瓶を持ち、竜彦と息子の間へ腰を下ろした。

「仲直りと、迷惑かけてごめんなさいの乾杯」
「……おい、俺は車だぞ」
「あらら、賢君残念だな」
「賢はそこのジンジャーエールでも飲んでたら」
「帰ったら、また乾杯したらいいじゃん」

 各々飲み物を注ぎ、幼い子供もプラスチックのコップを持ち上げる。

「幸せな二組の夫婦に、乾杯」
「かんぱーい」

 グラスとコップの触れる音が響き、5人は目を合わせ笑みを零した。



 ***



 車が停止する振動で、祐司は目を覚ました。
 いつの間にか、見慣れた我が家に着いている。

「おつかれー」
「おまえもな」

 賢に頭を軽く撫でられ、祐司は頬を緩ませた。
 運転席から降りた賢が、助手席のドアを開ける。
 その賢へ手を伸ばし、祐司は首に腕を回した。

「超いい夫婦だよな、おねーさん達」
「はた迷惑だがな」
「でも、俺の目標だよ」

 賢は何か言いかけたが、口を閉じた。
 祐司の背中を支え立ち上がらせながら、耳元に低く囁きかけた。

「俺達も、いい夫婦だというのを再確認するか」
「んー、まあいいけど」
「昨日今日邪魔された分は、23日に延期だ。今夜はその分、しっかり再確認作業に没頭しよう」
「色気ねぇー」

 けらけらと笑う祐司に、賢も口許を綻ばせる。
 肩を寄せ合い、二人は玄関を潜った。
 玄関の磨りガラスに、僅かな光がつくった、二つの重なる影が写った。


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 お付き合いありがとうございました<(_ _)>
 一番身近な他人である、姉弟。
 それぞれの、少し異なる夫婦のお話でした。




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