いい夫婦の日in北森家~2010~（前編）

　今年もやって参りました！
　年に一度のお祭り企画！
　あの方を（勝手に）巻き込んで、お送りしたいと思います(笑)

　お楽しみくださいませ。

　11月20日土曜日。
　都内西部にある北森家は、穏やかな休日の朝を迎えていた。

「今日、買い物行こうぜ！　冬物見に行きたい」
「そうだな」
「あと、そろそろりゅー君のクリスマスプレゼント、考えとかねーと」

　あまり可愛いとは思えない甥っ子の名前を出され、賢は聞こえない振りをした。
　祐司がむくれているようだが、無視をして食べた食器を持って立ち上がる。
　シンクに置いたところで、チャイムがけたたましく鳴り響いた。
　連打するチャイムに、慌てる祐司を手で制し、賢は舌打ちと共に玄関に向かった。

「やかましい、一度鳴らせば聞こえる！」
「だったらさっさと開けなさいよっ！」

　鍵を開けたと同時に、怒鳴り込んで来た相手に、賢の眉間には深い皺が刻まれた。
　片手に幼子を引いた、実姉・亜樹が立っていた。


　＊＊＊


「は？」
「あの、おねーさん……今、なんと」

　リビングのソファに踏ん反り返り、スラリとしたを組む亜樹を前に、賢と祐司は目を見開いた。
　当の本人は、まだ午前中だと言うのに缶ビールを片手に、目が据わっている。

「だーかーら、離婚するって言ったの！　離婚！　あの男の顔見てるとムカつくから、しばらく泊めてね」
「ちょっと待て！　何を言ってるんだ！」

　ローテーブルを叩き抗議する賢に耳を貸さず、亜樹は缶ビールを煽る。
　苛々と奥歯を噛み締める賢を横目に、祐司は溜息をついた。

「なんで急に、そんな話になったんですか？」
「んー、ちょっとね、まあ久しぶりに羽目外して夜遊びしたの。で、それが気に食わないって、ケツの穴小さい男ね！　浮気だとかもう、バッカじゃないの！」

　思わず尻を手で覆った祐司の頭を叩き、賢は姉を睨みつけた。

「原因は姉貴だろうが」
「はぁ～？　今時、ホストクラブ行ったくらいで浮気とか、あんたも言うわけ？」
「……ホストクラブ？」

　反射的に身構えたのは、脳裏にちらつく陰があるからだ。
　祐司も同様らしく、互いに目配せし、一度頷く。
　この世に五万とあるホストクラブ、まさかそう思い当たるところに行くとは思えない。いや、思いたくない。
　しかし、あっさり賢の願いは絶たれた。

「歌舞伎町の、CLUB Chaosって、知ってるでしょ？　あんた達。てかあたし、賢の姉だってわかったら、超サービスしてもらったんだけど」
「あー……、うん、知ってるていうか、知り合いの知り合いっていうか」

　頭を抱えた賢に代わり、引き攣り笑いで祐司が応える。
　亜樹は、いかにサービスされたかを語り、侍らせた若いホストのことを楽しげに話し出した。

「……一服してくる、ついでに義兄さんに連絡をしてくる」
「おう」

　ヨロヨロと庭に向かった賢の背中を見送り、祐司はこっそりと溜息をついた。

　　
　＊＊＊


　義兄は、それ程怒り心頭ではなかった。
　姉も直情型だが、この義兄も建築現場という仕事環境のせいか、非常に激昂しやすい。
　賢は犬走りに置いた灰皿に煙草を押し付け、膝に額を押し付けた。
　いくらなんでも、親にはまだ話せない。
　いや、姉の性格を熟知している母親辺りならば、上手く対処出来るかもしれないが。
　――ホストの知人という存在が、関わっているのがネックだ。
　職に貴賤無し、とは言うが、それはフォロー出来る範囲の親しい友人ならではだ。
　印象がただでさえよくない相手の招いたトラブルに関して、見過ごすわけにはいかない。

（……くそ、あのモジャモジャのせいだ）

　つい、今回直接関係の無い男に恨みをぶつけたくなる。
　たっぷり３本、煙草を肺に入れてから、賢は重い身体を起こし、リビングに向かった。





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