オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
あの夜のことは、夢だったんだ。
案の定、乙貴様は前の晩の出来事も自分で言った言葉も忘れてた。
けれど、よっぽど僕が死にそうな顔をしていたのか、お咎めはなかった。
珍しく、困惑気味に、ぎこちないながらも、僕を慰めてくれた。
『朝からそんな、この世の終わりみたいな顔を見せるな。気が滅入る』
よっぽど、僕は酷い顔をしていたんだと思う。
そのせいなのか、どうか。
あれから3日。
僕は、ご主人様から夜の呼び出しを受けていなかった。
***
「もう、僕は要らないのかな」
裏庭の隅で膝を抱え、僕は思わず呟いた。
行き倒れかけていた僕を、犬猫を拾うみたいに、拾ったご主人様。
家事も料理も満足に出来ない僕に、一つくらい役立つ仕事を与えると言って始まった、夜のご奉仕。
いつも一方的で、ご主人様優位で、僕がどんなに悲鳴を上げようと喚こうと、全然構うことをしなかった。
日中は日中で、虫けらを見る目で、僕を遠ざけて。
……あんなの、やっぱりご主人様じゃない。まやかしだ。
僕に優しい事を言うなんて。抱きしめられて、朝まで一緒に眠るなんて。
可哀相な僕に、神様がささやかなご褒美をくれただけだ。
「…贅沢過ぎるよね」
そんな夢が、毎日続けばいいなんて。
「史乃! ここにいたのか! 何をして……っ!」
いけない、見つかった。
叱られると思い立ち上がった僕を見て、ご主人様がはっと息を飲んだのがわかった。
「また、そんな顔をしている」
ご主人様は先程まで振り撒いていた怒りを抑えて、僕の側に近付いて来た。
びくりと身を竦める僕に、乙貴様は眉根を寄せて。
僕に伸ばしかけた手を、ご自分の脇で拳にして握りしめた。
「仕事に戻れ、史乃」
「はい」
目も合わさずに言い捨てるご主人様を見上げ、僕は胸がどうしようもなく痛むのを感じていた。
なんで僕は、この人が好きなんだろう。
「……失礼、します」
頭を下げて、走り出そうとした僕の手首を、ご主人様が突然掴んだ。
立ち止まった僕が、振り返る間もなく、背中から抱きしめられた。
「今夜、部屋に来い」
「……はい」
「それと、そんな顔をするな。――私を、惑わせるな」
それは僕の台詞だよ、と言いかけて、僕はそれを飲み込んだ。
久しぶりに感じた、ご主人様の温もりが。僕から言葉を奪ってしまったようだった。
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すごくノープランに書き出した話だったのですが、どうしても最後の乙貴様のセリフを入れたかった。
好きな系統は、
【俺様×健気】【ヘタレ×女王様】
萌え≠エロが持論です。でも、本番≠エロだし、下ネタはOKなんで、オカズになるようなエロは書けないということだけご了承ください。