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オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。

2024年11月14日 (Thu)
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2011年01月22日 (Sat)

 去る11月某日、PCオンリーのカウンターで記念すべき5000ヒットを迎えまして。
 そのキリ番を踏まれたのが……なんとその日も、何かとお話をしていたかのあるぱか様でございました。
 リクエスト頂いた内容は、「新婚シリーズ」賢と「春まで待てない」聡一のお話、という指定であったのですが。
 書いているうちに、なんか方向がズレて来た感が否めないのですが…。
 お楽しみ頂ければ幸いです。

拍手[6回]


「今夜一杯どうだ?」

 通用口を出たところで背後から声をかけて来た相手に、北森賢は足を止め振り返った。
 東京大手町にある誰もが知る証券会社は退社時間を迎え、一斉に社員を吐き出していた。
 連休を翌日からに控えた、金曜日の夜。どこか浮足立つ人が多い中、賢は実は夕飯をどうするか考えていた。
 そこへ同僚である、加賀谷聡一に声を掛けられた。彼がこちらへ向かって来るのを、賢は眉間に一本皺を刻みながら見返す。
 その様子に、相手は微苦笑を浮かべた。

「無理にっては、言わないけど」
「……いや、どうせ一人だから構わん」
「一人?」

 誘えば7割の確率で振られる相手の、意外な言葉に聡一の眉が軽く上がった。
 言葉足らずだったことを悟り、歩きだしながら賢は言葉を継いだ。

「子守だ、甥の。風邪なんだが義兄が右手の指を骨折していて、世話や面倒が見れない。姉は締め切り前で忙しいと来た」
「ああ、なるほど」

 並んで歩きだした聡一は、納得し軽く頷いた。からかう色を含む眼を、僅かに細め呟く。

「俺は、てっきり『実家に帰らせて頂きます』かと」
「そんなことがあるか、あいつの実家はそれこそ誰もいない」

 不機嫌な顔で言い返した賢に肩を竦め、聡一は苦笑を浮かべた。

「相変わらず仲がよくて何よりだな、お前のところは」
「俺のところは、って……また何かしたのか、加賀谷」
「その言い方は語弊があるな、常に何かはしたいだろう? 可愛い相手には」

 似たような格好のサラリーマンが足早に行き交う往来で、何かを匂わせる表情を見せる聡一に賢は溜息をついた。
 自分とは違い、直接顧客担当の部門に籍を置くこの加賀谷聡一は、内外共に評判がいい。
 人当たりの良さと確かな押しの強さ。責任感と誠意ある対応に、担当顧客からの信頼は相当厚い。
 しかし賢には、どうしても聡一を額面通りには受け止められなかった。
 一言で言えば、胡散臭い。
 最近何かと絡んで来る新宿の不動産屋の男と通じる、得体の無さが賢は聡一に一線を引かせていた。
 だが、当の聡一は賢の態度を気にせず、適度な距離を保ち近づいて来る。
 そして必ず、話題は互いのパートナーになるのだ。

「まあ、話は店でゆっくりとだ。掘りごたつがある店に行くか?」
「どこでもいい、寒い」
「確かに冷えるな」
「北国生まれだろうが」
「俺の街に、ビル風は無い」

 互いに身を竦め、衿元を合わせると足早に二人は歩き出した。


 ***


 身体にかかる重みと微かに匂うアルコールに、渡瀬愁は瞼を持ち上げた。
 昨日はバイトも無く、連休前だからと久しぶりに従兄弟である聡一の部屋に遊びに行こうと思っていた。
 だが当の本人から、そっけなく「同僚と飲みに行く」とメールが来たのだ。
 確かにこのところ、愁は忙しかった。顔もあまり見せに行かなかった。
 しかしそれも仕方ないと、愁は思う。
 最後に会った日、愁は聡一に明確な性的欲求をぶつけられた。……それが怖くて、逃げ出した。
 近所に住む気安さと、従兄弟である親密さ。
 聡一に甘えて、彼が望んでいるその先から目を逸らしている事。
 そんな曖昧な関係性であるにも関わらず、そうして聡一が自分以外と出かけることを面白くないと思う。それは、昔からの我が儘だ。
 歳の差による、立場や環境の差。それが面白くない。
 そんな複雑な気分で眠ったはずなのだが、今愁の上にその張本人が乗っていた。
 コートのまま、外から戻ったままの格好で。

「そ、聡ちゃん?」

 布団も被らずに、腰に抱き着くように伏せっている聡一の肩を揺さ振る。
 よほど深酒をしたのか、珍しく起きない。
 しかし、重みと微妙な位置に乗っている聡一を意識すれば、うかうか寝直す気にもなれない。
 そろそろと抜け出し、ゆっくりと愁は床に足を付けた。
 そこに、ドアの向こうからノック音と母の声が掛かった。

「愁、起きた? 聡ちゃんも起こして、朝ごはん食べに来なさい」
「あー……うん」

 母に返事をしつつ、母は聡一がここで寝ていることをどう思っているのだろうかと考えた。
 母親同士が姉妹であるからこそ、自分達は幼い頃から仲が良かった。
 愁は重い溜息をつき、もう一度聡一の肩に手を掛けた。

「聡ちゃん、朝ごはんだよ。母さん呼んでる」

 先程より強く揺さ振れば、聡一の指先がぴくりと反応した。
 手応えを感じ、もう一度揺さ振る。

「……ん? 愁が……なんで?」
「俺が聞きたいよ、聡ちゃんなんで居るの」

 首を持ち上げ、愁を認めた聡一は、何度か瞬きを繰り返し、ああと呟いた。

「昨日、寒かったから」
「答えになってないし」
「そうだな、飲み過ぎて多分無意識に俺の帰る場所は愁のところって思ったんじゃないか」

 着の身着のままの格好に気付き、苦笑混じりに話す聡一に、愁は顔が熱くなるのを感じた。

「……バカじゃない、人には飲み過ぎるなって言うくせに」
「大人ですから」
「大人なら尚更だよ!もう、俺先に下行くからね!酔っ払い!」

 憎まれ口しか返せない自分が、情けない。
 愁は駆け出すように、部屋を飛び出していた。
 

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