オリジナルBL小説置場。 ご理解のない方はUターンを。 萌え≠エロ持論で作品展開中。 短編中心、暇つぶしに読めるお話ばかりです。
***
携帯が鳴り出したのは、ようやく動き出し顔を洗った直後だった。
祐司からは、昨夜のうちに何度かメールが来ていたらしいが全く気付かなかった。
起きぬけに電話をし、昼過ぎには戻ると言った祐司を駅へ迎えに行くことで、どうにか機嫌を取った賢は、再び鳴り出した携帯を取るのに躊躇した。
意を決して開いた画面に示された名前に、思わず賢は安堵の溜息をついた。
『おはよう、ってもうすぐ昼だけど』
「……なんだ?昨夜のタクシー代なら、今度で構わないぞ」
『今、北森の使う駅にいるんだけど。家、遊びに行っていい?』
「何?」
声が低くなった賢に、向こう側で聡一が忍び笑いをするのがわかった。
『愁も一緒なんだ』
「駅まで来ていて帰れと言えるか! ……少し待て、今ちょうど家を出る」
『お迎え?ラッキーだな』
「ついでだ!」
吐き捨てるように通話を切った賢は、疲れた顔で車の鍵を取りに向かった。
駅前の小さなロータリーに視線を走らせ、祐司は目的の車がまだ来ていないことを確認する。
持たされた謝礼代わりのお土産を提げ、祐司は車を待つために歩き出した。
が、先を急ぐ人が追い越しがてらに祐司の肩にぶつかった。
勢い傾いた身体から、袋が手を離れる。
あ、と思い手を伸ばした祐司の前に人影が出来た。
「危ないな、大丈夫ですか?」
肩を支えるように前に立ちはだかった相手に、祐司はそろそろと視線を上げた。
賢と同じくらいの身長だが、自分を見下ろす長身に内心ムカつきつつ口を開いた。
「ありがとう、平気。手が塞がってて……あ、荷物!」
「はい、どうぞ」
脇から掛けられた声に、驚いて首を巡らす。
仲良くしている大学生の友人くらいの青年が、紙袋を差し出してくれた。
「サンキュー」
「いえ」
「転ばなくてよかった」
頭上でにこやかな笑顔を見せる相手に、釣られて笑い返し、祐司は袋を受け取った。
どこか雰囲気の似た二人だなと思いながら、もう一度謝礼を言って頭を下げる。
祐司が車止めに近い場所で立ち止まれば、数メートル離れた場所で彼らも車を探すように首を巡らせていた。仲が良さそうに何か囁き合う二人に、祐司はほのぼのした気分になりながら自分も車を探した。
そこへ、ロータリーに車が入って来るのが見えた。
手を挙げられず、仕方なく全身を震わせた祐司の脇に、見慣れた自動車が停まった。
「北森!」
「へ?」
賢が運転席を降りるなり掛かった声に、祐司も振り返った。
先程の長身の方が、片手を大きく振りながらこちらへ近付いて来る。
無言で祐司から取り上げた荷物をしまう賢の不機嫌な顔と、近付いて来た二人を交互に眺めながら、祐司は首を傾げた。
「賢、呼ばれてるぞ」
「あれ? もしかしてこちらが、北森の?」
「ちょ、賢! 説明しろよ!」
双方から掛かる声に明らかに苛立ちを隠さず、賢は乱暴に荷台のハッチを閉めた。
「聞こえてる、説明は後だ! 乗れ」
睨みを利かせる賢に口を噤んだ祐司は、大人しく助手席へ乗り込む。
聡一は戸惑う愁の背中を押して、後部座席へ乗り込んだ。
***
「初めまして、北森にはお世話になってます。同期の加賀谷聡一です。こちらは、俺の従弟の愁で大学生」
「あ、ご丁寧にどうも。け……北森の妻の、祐司です。初めまして」
夫婦二人暮らしにも関わらず、長方形の立派なこたつが鎮座しているリビングで、改めて挨拶を交わす。
二人ずつ横並びで座った状態で向かい合ったまま、しばらく無言が場を支配した。
「……で、何しに来たんだ」
天板の上にコーヒーを置き、賢が重い溜息交じりに呟く。
聡一は座椅子に凭れかかりながら、賢を見やり苦笑を浮かべた。
「何しにって、普通にお宅訪問したかったんだよ。北森の噂の奥方に興味があったし」
「噂!? は!? 賢、何喋ってんだよ」
「お前の事はろくに喋っていない。……第一、男だと知ってるのもこいつぐらいだ」
喚き立てる祐司の頭を小突きながら、すっかり固まっている愁に賢は視線を向けた。
どう説明されて連れて来られたのか、完全にこの場の空気に気圧されている。
「驚いたか?」
「え……あの……ハイ」
賢の問いかけに頷いた愁は、慌てて首を横に振った。
縋る様に聡一に視線を向ける愁に、聡一は宥める為に肩を叩いた。
「いいよ、愁には何も説明してなかったから。驚いて当然だ」
「聡ちゃん……」
「でも、愁に知って欲しかったんだ」
何を、とは聡一は口にしなかった。
三人に視線を巡らせ、愁は少しだけ眼を伏せた。
「えと……あの、びっくりはしたんですが、その驚いただけで悪気は無いって言うか」
「まぁ、普通におかしいよな。いいよ、全然気にしてないから」
あっけらかんと言い放った祐司に、愁は顔を上げた。
聡一の肘をぎゅっと握る姿に、賢と祐司は顔を見合わせ穏やかな笑みを返す。
「さってと、俺腹減ったし二人とも……あ、賢も昼飯まだだろ? なんか取る?」
「そうだな、お前も疲れただろ」
「そうだよー、マジ大変だったんだから!」
店屋物のチラシを探しに立ち上がった祐司の背中に、賢は柔らかな視線を向ける。
目ざとくそれに気付いた聡一が、愁の肩を叩いた。
「いいだろ、この二人」
「……うん」
不思議そうに見つめる愁の手を、聡一が賢に気付かれないようそっと見えない握り締めた。
驚き慌てる愁の耳元へ、囁きを吹きかける。
「いつかこの二人のように、俺達もなれたらいいと思ってる。俺は、だけど」
顔を真っ赤にして俯いた愁に賢は気付いたが、見てみない振りをして視線を逸らした。
チラシを抱えた祐司が戻って来る。
賢はそれを認め、天井を仰いだ。忘れいていた空腹を思い出しながら、口許に笑みを浮かべる。
「祐司、ついでに酒だ。彼は呑めるんだろう?」
「愁酔わせてどうするんだ」
「何をさせるつもりだ。俺が面倒をみるのは、祐司だけだ」
「へ? 俺そんな酔わねーし呑まねーし! てかさ、二人って全然雰囲気違うけど似てるよな」
「何?」
「どこが?」
「あ、でもなんか納得……」
愁にまで言われて、聡一にしては珍しく不快感を露に賢を睨み据えた。
「俺がこんなむっつりと似てるのは、心外だな」
「俺もお断りだ」
「まぁまぁ、仲良くやれって。賢友達少ねーんだし! さ、好きなもん頼んで頼んで! 賢も座ってねーで、グラス出したりしろよ!」
祐司に発破をかけられ、賢はしぶしぶ重い腰を上げる。
その日は結局遅くまで、賑やかな声が途切れることは無かったという。
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